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福岡高等裁判所 昭和27年(う)3364号 判決 1953年2月19日

控訴人 原審検察官 藤井洋

被告人 小山田伊右衛門 弁護人 清水正雄

検察官 宮井親造

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役参月に処する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

被告人の本件控訴を棄却する。

理由

弁護人清水正雄及び検察官宮井親造の陳述した各控訴趣意は記録に編綴されている同弁護人提出及び検察官納富恒憲提出、検察官山田四郎作成名義の各控訴趣意書記載のとおりであり、同弁護人の答弁は同弁護人提出の答弁書記載のとおりであるからこれを引用する。

弁護人の控訴趣意第一点の(一)、(二)について

原判決が事実認定の資料に供している証拠の標目中に「高尾タノの司法警察員に対する供述調書、花田彌太郎の同供述調書」か摘示されていること、原審第一回公判調書に、検察官の取調請求により右両供述調書について、証拠調のなされた旨の記載の存することは所論のとおりであるが、原審第一回公判期日において、検察官のした取調の請求により証拠調のなされた証拠書類がその取調請求の順序に従つて記録に編綴されているところからみて、前掲各供述調書が編綴されていなければならない当該箇所にただ両供述調書の各謄本が編綴されており、しかもその供述調書の各謄本が公判期日前たる昭和二十七年五月二十九日福岡市警察局本部、司法巡査井上品子によつて作成認証されている点に照らして考えると、同年七月十二日の原審第一回公判期日においては、実は右両供述調書の各謄本自体について検察官からその取調の請求がなされて被告人及び弁護人がこれを証拠とすることに同意し、それについて、証拠調のなされたものであることが容易に推認されるので原審第一回公判調書に「五、司法警察員に対する供述調書(高尾タノ)六、司法警察員に対する供述調書(花田彌太郎)」とあるのは、いずれも「供述調書謄本」と記載すべきところ、ただその「謄本」の文字を省略したものであるということができるし、又原判決に前記のとおり、高尾タノ及び花田彌太郎の司法警察員に対する各「供述調書」とあるのは記録に編綴されている、右各供述調書の「謄本」を指すものであることが明らかであるから、原判決には所論のように、証拠に基ずかないで、事実を認定した違法の点なく、論旨は理由がない。

同控訴趣意第一点の(三)について

弁護人が原審において被告人の本件所為につき、期待可能性のないことを陳述して、被告人が免責さるべきものであることを主張していること、原判決が、弁護人の右主張事実を掲げてこれに対し、直接的に判断を示していないことは、所論のとおりであるが、期待可能性がないことに対する判断の方法は、その弁護人の主張する事実に関して、却つて反対の事実を認定して間接的に主張否定の判断を示す方法を採つても差支えなく、必らずしも、所論のとおり、その主張事実を、判決書に掲げ、これに対して直接的に判断を示すことを要するものではないものと解するのを相当とする(昭和二十四年九月一日最高裁判決参照)ところ、原判決は被告人が雇入れて淫行をさせる行為をした各児童の年齢が満十八歳に満たないことを知らなかつたことに過失がある旨を判示して、間接的に弁護人の期待可能性の理論に基ずく事実の主張に対して否定する判断を示していることが明らかであるから、原判決には、所論の違法なく、論旨は理由がない。

同控訴趣意第一点の(四)について

児童福祉法第六十条第三項の規定は、児童を使用する者は、その児童の年齢を知つて使用する者であると一般的に推定して、児童の年齢を知らないことを理由として、児童の使用に関する禁止行為違反の罰則の適用を免かれ得ないものとし、ただ児童の年齢を知らないことについて過失のないときには、違反行為者に立証責任を負担させ単なる免責事由としたにすぎないものであることが明らかであるから、児童を使用する者が児童の年齢を知らなかつたことに過失のあることは、児童の使用に関する禁止違反行為の「罪となるべき事実」ではないものといわねばならぬ。してみれば原判決が「被告人が児童たるの年齢の不認識について、過失があるものである」と判示しただけで、年齢の不知について、被告人に如何なる過失があるかを具体的に判示しなかつたとしても、それはもとより当然のことであり、これを以て所論のように理由不備の違法があるものということはできない。論旨は理由がない。

同控訴趣意第二点について

しかし原判決のあげている各証拠を綜合すると判示第一第二のとおり、被告人が判示立石八寿代、久田トヨ子のいずれも満十八歳に満たない児童を従業婦として雇入れ判示の場所で、判示期間、数回に亘り客と売淫をさせて、児童に淫行をさせる行為をした事実を認定することができるし、被告人が、右両児童の年齢が、十八歳未満であつたことを知らないことに、過失のなかつたことは、その点に関して被告人の立証した各証拠に現われた事実によつてもこれを認めることができないし、却つて本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われた事実によると、被告人に、両児童の年齢の不認識について過失のあることが明らかであるから、原判決には、所論のように審理不尽の結果事実を誤認した違法の点なく、論旨は理由がない。

同控訴趣意第三点及び検察官の控訴趣意竝びにこれに対する弁護人の答弁について

本件訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われた本件犯罪の動機、態様その他諸般の情状に照らすと、弁護人が控訴趣意及び答弁において主張する各般の事情を斟酌しても、原審の被告人に対する科刑は軽きに過ぎ、量刑が不当であると認められるので検察官の論旨は理由があり、原判決は刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条により、破棄を免かれない。従つて原審の刑をなお重しと主張する弁護人の論旨は勿論理由がない。

以上説明したところにより、被告人の本件控訴は理由がないので、刑事訴訟法第三百九十六条に従い、これを棄却すべきものとする。そして当裁判所は本件記録及び原裁判所において取調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認められるので原判決を破棄した上、刑事訴訟法第四百条但書に従い更に判決をすることとする。

そこで、原判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人の判示各所為は、児童福祉法第六十条第一項第三項に該当し、刑法第四十五条前段の併合罪であるから、所定刑中いずれも懲役刑を選択し同法第四十七条本文第十条に則り、犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役三月に処し、刑事訴訟法第百八十一条第一項により、原審における訴訟費用は、被告人をして全部これを負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 大曲壮次郎)

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